農業DXの現状と課題、目的実現に向けたプロジェクトとは【徹底解説】

DX(デジタルトランスフォーメーション)は様々な業界で推進されています。

農業においても、2022年3月に農林水産省より「農業DX構想」が発表されDX推進により目指すべき姿が明確となりました。

今回は、農業におけるDX化について解説していきます。

現状の課題から、目標実現に向けたプロジェクト、企業の取り組み事例を紹介し、農業DXの必要性が理解できる内容となっています。

農業DXとは

農業DXは、

農業者がデジタル技術を活用して、消費者が求める多様な「価値」を提供することにより、経営発展(売上の増大と所得の向上)を実現すること※1

を目的としています。

※1農林水産省:農業のデジタルトランスフォーメーション(DX)について

DXとは、

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジ タル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのも のや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」※2

と定義されています。

※2経済産業省:デジタルトランスフォーメーションを推進するための ガイドライン

農林水産省より「農業DX構想」が策定され、DX推進の方向性や取り組むプロジェクトを提示しています。

農業DXにより目指す姿

農林水産省の「農業DX構想」には農業DXにより目指す姿として、

農業や食関連産業に携わる方々がそれぞれの立場で思い描く「消費者ニーズを起点にしながら、デジタル技術を活用し、様々な矛盾を克服して価値を届けられる農業」※

が掲げられています。

※農林水産省:「農業DX構想」~「農業×デジタル」で食と農の未来を切り拓く~

ただ、モノを売るのでなく消費者が求める価値(安心安全、新鮮さ、美味しさ、生産者の想いなど)を提供することと、それにより農業者が適正な対価を得られる環境の実現を目指します。

農業のデジタル技術活用の現状と課題

農業における、デジタル技術活用の現状と課題を解説します。

生産現場の現状と課題

生産現場においては、主にデジタルツール活用の加速化と通信インフラの整備が課題となっています。

センサーやドローン、自動走行トラクターなどの導入やデータ管理ツールなどのサービスが提供され、機器等からのデータ分析、活用の環境が整ってきている一方で、まだ各種作業(生産、出荷、経営に関する部分など)を人手、紙媒体でやり取りしている農業者が多い現状があります。

※農業 DX 構想検討会;農業 DX 構想~「農業×デジタル」で食と農の未来を切り拓く~

また現状では、データを活用して農業経営を行っている農業経営体は全体の17.0%となっています。さらに、センサーやドローンなどからのデータを活用している農業経営体は全体の1.1%と極めて限定的となっています。

通信インフラの整備も課題となっています。

スマートフォンなどの携帯電話の通信環境はほぼ全国に整備され、農村地域でも通信が可能となっています。

しかしほ場レベルでは、センサーやスマート農業機器などの遠隔操作やデータの送受信には新たな通信環境の整備が必要な場合が多く、通信環境を整備するハードルが高く進んでいない現状があります。

※参照:農林水産省:農業DXをめぐる現状と課題

農林水産省:「農業DX構想」~「農業×デジタル」で食と農の未来を切り拓く~

流通・消費の現状と課題

流通・消費においての課題として、物流の効率化が進んでいないこと、消費者のニーズを把握しきれていないことが挙げられます。

他産業では物流の効率化・自動化に向けて、異業種間での共同輸送や輸送経路の最適化などデジタル技術を活用した取り組みが進められています。

農業では、出荷時期が天候に左右されるなど農産物の特性もあり、物流の効率化が進められていない現状があります。

また消費者のニーズを把握するためには、産地からの集出荷から消費者の購買までの情報共有が必要になるが、先述の通り産地からの集出荷情報は紙ベースで管理されているものが多いことや農業者と流通、小売業者間でデータの電子化が進んでいても、川上から川下への情報共有ができているケースは限定されています。

さらに、消費者のニーズの把握には小売店での購買データ(販売個数、価格など)の収集、分析が有効的だが、農産物の多くは個包装されないことや小売店でカットされることもあり、卸売市場価格の情報しか活用できていないことも課題として挙げられます。

※農林水産省:農業DXをめぐる現状と課題

農業 DX 構想検討会:農業 DX 構想~「農業×デジタル」で食と農の未来を切り拓く~ 

行政事務における現状と課題

「農業×デジタル」で食と農の未来を切り拓く~

農林水産省が所管する行政手続や補助金、交付金は、各地方自治体や関係する団体と手続きすることもあり、紙媒体での申請や押印などの手作業が必要な業務がベースとなっていることが課題となっています。

農林水産省共通申請サービス(eMAFF)を導入し、各種手続きのオンライン化データの保管・管理システムの整備が急務となっています。

農業DXの実現に向けたプロジェクト

農業DXの実現に向けて、農林水産省では「現場」「行政実務」「基盤」を軸にしたプロジェクトを進めています。

ここでは、それぞれで進められているプロジェクトを紹介していきます。

農業・食関連産業の「現場」系プロジェクト

「現場」とは、農産物や畜産物の生産現場だけでなく、流通や小売などに加え、生産資材の提供企業などを含めたものを指します。

主に以下のプロジェクトに取り組んでいます。

  • スマート農業推進総合パッケージ
  • 先人の知恵活用プロジェクト
  • 農山漁村発イノベーション全国展開プロジェクト(INACOME)
  • 消費者ニーズを起点としたデータバリューチェーン構築プロジェクト
  • 農産物流通効率化プロジェクト
  • スマート食品製造推進プロジェクト 

この中で、スマート農業推進総合パッケージを紹介します。

スマート農業推進総合パッケージ

※農林水産省:農業DXをめぐる現状と課題

スマート農業推進総合パッケージはロボットやAI、IoTを活用した「スマート農業」を推進し現場の課題を解決するプロジェクトです。

2025年までに農業者のほぼ全てがデータを活用した農業を実践し、農業支援サービスの利用を希望する農業者の8割以上が実際に利用できることを目指しています。

農林水産省の「行政実務」系プロジェクト

「行政実務」とは、「現場」の取り組みを支える農業政策や行政事務などの農林水産省が抱える業務を指します。

「行政実務」のデジタル変革により、利便性の向上と業務の効率化を進め、データの利活用による政策の質を向上させることを目的としています。

以下のプロジェクトに取り組んでいます。

  • 業務の抜本見直しプロジェクト(地方公共団体の業務を含む)
  • データ活用人材育成推進プロジェクト
  • データを活用したEBPM・政策評価推進プロジェクト
  • 農業者データ活用促進プロジェクト
  • 農業 DX 情報発信プロジェクト 
  • 農業農村整備事業業務支援システム刷新プロジェクト
  • ドローン等を活用した農地・作物情報の広域収集・可視化及び利活用技術の開発プロジェクト
  • 統計業務の効率化プロジェクト 
  • 農林水産省働き方改革プロジェクト

この中で業務の抜本見直しプロジェクトを紹介します。

業務の抜本見直しプロジェクト

※農林水産省:農業DXをめぐる現状と課題 P21

eMAFFによるオンライン化の推進に先立ち、現状の業務を可視化し、各手続きの申請項目や添付書類などを行い、eMAFFの実装作業をし、農業者へ周知したのちに手続きのオンライン化を開始します。

現場と農林水産省をつなぐ「基盤」の整備に向けたプロジェクト

「基盤」とは、データの収集や共有、分析を円滑に行うために現場と農林水産省をつなぐものを指します。

「現場」「行政実務」の変革に取り組む前提として「基盤」の整備が必要となります。

以下のプロジェクトに取り組んでいます。

  • eMAFF プロジェクト
  • eMAFF 地図プロジェクト
  • MAFF アプリプロジェクト
  • 農業分野オープンデータ・オープンソース推進プロジェクト 
  • データのコード体系統一化プロジェクト
  • 行政手続データ項目標準化プロジェクト
  • 筆ポリゴン高度利用プロジェクト 
  • バックオフィス業務改革に資する人材情報統合システムの整備・活用プロジェクト 

ここでは、eMAFF プロジェクトについて紹介します。

eMAFF プロジェクト

※農林水産省:農業DXをめぐる現状と課題 P19

eMAFFとは、農林水産省共通申請サービスです。

eMAFFの活用により、

  • 申請書のオンライン申請(地方公共団体と連携)
  • 再申請の簡略化
  • データ収集、分析による政策の評価、立案の精度向上
  • デジタル地図と連動し、農地情報の一元管理

が可能となります。

eMAFFを基盤にすることで、「現場」「行政実務」のプロジェクトでのデータ収集や分析がスムーズに行うことが可能となります。

農業DXに取り組む企業の事例

ここでは、農業DXに取り組む企業の事例を紹介します。

株式会社ビビッドガーデン

株式会社ビビッドガーデンでは、生産者が消費者・飲食店に直接販売ができるプラットフォーム「食べチョク」を提供しています。

株式会社ビビッドガーデン

株式会社ビビッドガーデンでは、「生産者のこだわりが正当に評価される世界へ」をビジョンに掲げています。

現在の流通構造は、生産者から消費者に届くまでに卸売や小売店を経由することで生産者が手にする利益はとても少なくなっています。

特に小規模の生産者にとっては、利益を上げることが難しい現状となっています。

「食べチョク」は、オンライン直売所として生産者と消費者を直接つなげることを可能としたプラットフォームです。

生産者にとっては利益が出るだけでなく、消費者と直接コミュニケーションを取れることによりニーズにあった生産が可能になります。

消費者にとっても、生産者が見えることで安心して購入することができるなどのメリットがあります。

NEC

NECでは農業ICTソリューションを提供しています。

ICTソリューションを活用することで、農場の管理情報や熟練者の農業技術を見える化することが可能です。

ここでは2つのサービスを紹介します。

やさい生育観測サービス

NEC

やさい生育観測サービスは、ドローンで圃場を撮影、撮影した画像をAI解析して野菜のサイズや個数を計測するサービスです。

サービスを導入することで収穫量の把握を正確にし、作業者の手配や資材の準備の効率化、卸売業者などの確認作業のコスト(交通費や人件費)削減が可能になります。

農業技術学習支援システム

NEC

農業技術学習支援システムでは、熟練者の技術やノウハウを学習コンテンツ化しタブレットやPCで学習することができるシステムです。

技術やノウハウを見える化することにより、若手や新規就農者の技術取得に活用できます。

熟練者の技術継承が課題とされている農業現場において、効率的に技術を伝えることが可能となります。

まとめ

今回は農業DXについて、解説しました。

農業現場では、他産業と比較しDX化が遅れている部分が多くあります。

一方で、スマート農業機器などのサービス開発は進んでいます。

農林水産省の農業DX構想を指針に、着実にDX化を推進していくことが目標実現に向けたポイントとなるでしょう。