DXとは?定義やIT化との違い、課題や現状を解説

DXという言葉は一時の流行を超え、定着化したといえます。多くの企業で、DX室の設置やロードマップ策定などの取り組みが始まっています。

この記事では、DXについての全体像を理解する上で必要といえる「DXの定義」や「DXが注目されている理由」「必要性と効果」などの各要素について解説しつつ、企業におけるDX推進の課題や事例、関連する技術分野についても紹介します。

DXとは

まずは、DXの定義や具体例などについて解説を行います。

DXの定義

DXの定義は様々存在しますが、一般的に日本のビジネスシーンにおいては国内のDXの推進役となっている経済産業省の定義を用いることが多いです。

経済産業省が2018年に取りまとめた「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン※」では、DXの定義を「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」としています。

※経済産業省:デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン

DXの具体例

この定義だけを読んでも、なかなかDXのイメージは湧きにくいかもしれません。そこで、以下ではDXの具体例を紹介します。

例えば、DXの一例としては非接触決済やカメラ認証などを用いた新たな販売形態の模索などが考えられます。従来、顧客が店舗に訪れた際には必ずレジを通る必要がありました。一方で、非接触決済と認証技術を用いることで、レジを通らず自動で会計をすませ、ウォークスルーで商品を購入するようなこともできます。これにより、顧客は新たな購買体験を得ることができます。

また、AIを用いた製造工程の高度化などもDXの例といえるでしょう。例えば、AIの画像認識技術を用いて、ライン上に流れる製品のうち不良品を自動で見分けるようなことも可能です。これにより、人手不足の解消や生産コストの低下を実現することができます。

これらの例から読み取れるように、DXの定義をより分かりやすくかみ砕くと、「デジタル技術を利用してビジネスモデルを変革し、新たな価値を生み出していく取り組み」がDXであるといえるでしょう。

なぜDXが注目されているのか

近年、DXという言葉が注目されていますが、これはどのような背景によるものなのでしょうか。以下で解説します。

DXレポートの衝撃

日本においては2018年ごろからDXが注目されるようになりました。その背景には、2018年に経済産業省が公表した「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~※」の存在があります。

同レポートは、日本企業は他国と比較してデジタル化が遅れており、このままでは他国と比較して競争力を確保することは難しいと警鐘を鳴らすものです。さらに、「2025年の崖」という言葉の通り、2025年にはデジタル化の遅れにより最大で12兆円の損失が発生すると試算されており、多くの日本企業に衝撃を与えました。

日本のDXの取り組みにおいて、DXレポートが与えた影響は大きいといえます。同レポートの公表を契機に、国内でDXの取り組みが加速することになりました。

※経済産業省:DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~

破壊的企業の登場

DXが注目されているもう一つの理由として、いわゆるGAFAMと呼ばれるようなビックテックを中心とした企業の拡大・伸張に伴い、既存のビジネス分野が侵食されているという危機感もあります。

これらの企業は、「破壊的企業」などと呼ばれることもあり、様々な既存の産業分野に革命を起こしています。例えば、出版業界や音楽業界においては、これまでと全く異なる商流・ビジネスモデルを確立することで、既存企業の多くを過去のものとしました。これらの破壊的企業は現在も自動運転など複数の業界への投資を続けており、既存企業は対抗すべく競争力の強化を目指しています。

既存企業が破壊的企業に対抗するための手段として、DXの推進が必要とされています。デジタル技術を活用した新たなビジネスモデルを生み出すことで、生き残りを目指しているのです。

DXの必要性と効果

DXの必要性

企業はなぜDXに取り組む必要があるのでしょうか。DXの必要性について、上述した経済産業省のDXレポートでは、「レガシーシステムへの対応」と「デジタルを活用したビジネス強化」をポイントとして挙げています。

多くの企業で古いシステムを継続利用しているという課題があります。このような「レガシーシステム」は継続的なメンテナンスだけでも膨大なコストがかかります。特に大企業ではシステムの運用保守コストのせいで新規の投資ができない状況であり、企業はこのようなレガシーシステムを刷新してコストダウンを行う必要があります。

また、一般消費者がスマホやインターネットなどに日常的に触れる中で、デジタルを活用しない旧来型のユーザ体験の価値が低下しています。例えば問い合わせ窓口に電話やファックスしかないのは不便であり、直接やり取りしなくてよいLINEやチャットボットの対応が好まれるようになっています。デジタルを活用しないビジネスは時代遅れとみなされるリスクがあり、企業においては自社の顧客接点におけるプロセスをDXによりデジタル化していくべきといえます。

DXの効果

企業がDXを行うことで、ビジネスへ付加価値を付けることができます。デジタルによる付加価値を活用した新たなビジネスモデルの構築はもちろん、既存ビジネスの改良も可能です。

付加価値の例として、例えば今では宅配物が届く前にメールで通知が届くのは当たり前になりました。これにより、受け取り忘れを防ぐことができます。また、スマホからタクシーを手配することも容易となり、到着の少し前にプッシュ通知を受け取ることもできます。これらの例のように、従来型のビジネスであってもデジタルの力で価値を向上できるのです。このような取り組みを行える余地は既存のビジネスの中に多く存在するでしょう。

別の観点では、DXによりコスト削減を実現することもできます。特にレガシーシステムという負債を抱えているケースでは、DXにより最新のシステムを導入することのコストメリットは大きいです。

また、視点を変えるとレピュテーション面でのメリットもあるといえます。株主等のステークホルダーに対して、自社のDXへの取り組みを伝えていくことで企業価値の向上をアピールすることもできます。また、一般消費者に対しても、DXの取り組みにより最先端の企業であるという印象を与えることもできます。

DXの段階:デジタイゼーションやデジタライゼーションとの違いは?

DXの必要性や効果は理解しつつも、DXの推進は簡単なものではありません。自社が十分にデジタル化されていない中で、一足飛びにDXを実現することは困難と言われています。DXを実現するためには、自社の成熟度に応じた取り組みが必要です。

経済産業省が公表している「DXレポート2※」では、企業・組織のデジタル成熟度は「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の3ステップに分解されるとしています。

この考え方に沿うと、企業は自社の成熟度に従ってデジタイゼーションの取り組み、もしくはデジタライゼーションの取り組みを経たのち、最終目標としてDXを目指すことになります。

これらの各ステップにはどのような違いがあるのでしょうか。以下で解説します。

※参考:デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会の中間報告書『DXレポート2(中間取りまとめ)』

デジタイゼーションとは

上述した「DXレポート2」によれば、デジタイゼーションとは「アナログ・物理データの単純なデジタルデータ化」と定義されています。

また、IT分野に関する調査会社であるガートナー社では以下のように定義されています。

原文:

Digitization is the process of changing from analog to digital form, also known as digital enablement. Said another way, digitization takes an analog process and changes it to a digital form without any different-in-kind changes to the process itself.

筆者による日本語訳:

デジタイゼーションは、アナログから有効なデジタル形式へ変換すること。言い換えると、デジタイゼーションはアナログのプロセスを、プロセス自体を変えずにデジタル化するものといえる。

ガートナーWebサイトより引用

これらの定義をもう少し具体化すると、例えばこれまで人が手作業で行っていた業務にシステムを導入したり、紙で管理していた資料をシステムやデータベースに登録したりすることがデジタイゼーションの具体例といえるでしょう。

デジタイゼーションは、いわゆる「IT化」や「システム化」に近い概念です。社内の特定の業務や作業をITシステムにより自動化・効率化するのがデジタイゼーションといえます。

デジタイゼーションの効果と具体例

デジタイゼーションを実施することで、企業はどのような効果を得られるのでしょうか。これまでも、企業はシステム化により人件費の削減などのコスト削減を実施してきました。もちろん、デジタイゼーションにも同様の効果がありますが、DXの文脈の中で重要なのが「データのデジタル化」という観点です。

当然ながら、紙に書かれている内容をコンピュータは理解できません。DXの実現のためには、データの活用が一つのポイントとなりますが、データがデジタル化されていなければデータ活用は困難です。しかしながら、企業の多くの業務がいまだアナログであり情報がデジタルデータ化されていないという課題があります。

例えば、コロナ禍により一般化したテレワークですが、テレワーク時の課題となったのが押印業務です。押印による承認フローには出社が必須ですから、テレワークでの業務遂行が困難となりました。その対応として、ワークフローシステムの導入が考えられます。ワークフローシステムを導入することで、システム内に決済履歴データが蓄積されていきます。このデータを可視化・分析することで、業務量の分析や改善策の検討など、DXの足掛かりにすることもできます。これが、一つのデジタイゼーションの例といえます。

デジタライゼーションとは

デジタイゼーションの次のステップにあたるのがデジタライゼーションです。デジタライゼーションという言葉は造語であり、様々な定義が存在します。例えば、上述した「DXレポート2」ではデジタライゼーションを「個別業務・プロセスのデジタル化」と定義しています。

また、ガートナー社はデジタライゼーションを以下のように定義しています。

原文:

Digitalization is the use of digital technologies to change a business model and provide new revenue and value-producing opportunities; it is the process of moving to a digital business.

筆者による日本語訳:

デジタライゼーションとはデジタル技術によりビジネスモデルを変化させ新たな収益や価値を提供するものである。つまり、デジタルを用いたビジネスへの変化への過程である。

ガートナーWebサイトより引用

これらの定義より、デジタライゼーションはデジタイゼーションよりもDXに近い概念であることが分かります。

それでは、デジタライゼーションとDXの違いはどこにあるのでしょうか。両者の違いを端的に言えば、自社のデジタル化の範囲です。DXは「全社的な業務・プロセスのデジタル化」と定義されます。例えば製造業であれば調達・製造プロセスから流通、販売まですべてがデジタル化されている状態です。一方でデジタイゼーションは、その前段階として個別の範囲でデジタル化が実現できている状態です。例えば、デジタイゼーションによりデジタルデータ化された顧客情報を元に顧客分析を行い、顧客の体験を改良するような活動がデジタイラゼーションの例といえます。

デジタライゼーションの効果と具体例

デジタライゼーションを実現することで、個別の範疇ではあるもののデジタル化による新たな価値創出や新ビジネスの提供などを実現することができます。

一つの例を挙げると、小売業においては「オンラインとオフラインの融合(Online Merges with Offline:OMO)」という考え方が普及しつつあります。例えば、アパレル業界におけるECサイトの課題として、実際に顧客が試着できないという点が挙げられます。そこで、ECサイトと実店舗を連携させ、ECサイト上で気になった商品を店舗で試着できるサービスを提供することで、顧客の不便さを解消することができます。これは、店舗とECサイトを連動させることで顧客の不満点を解消し、新たな顧客体験を生み出している例といえるでしょう。

このように、デジタイゼーションによって他社と差別化を行い、より顧客から選ばれる企業となることができます。

最終目標としてのDX

デジタイゼーション、デジタライゼーションという段階を得たのち、最終目標であるデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現することができます。

上述した「DXレポート2」でも、各企業の現状に応じて、自社がデジタイゼーション・デジタライゼーション・デジタルトランスフォーメーションのどの段階なのかを整理したうえで、DX推進のためのロードマップを検討するべきとしています。

デジタイゼーション・デジタライゼーションとDXの違いについて理解することで、より現実的かつ実現性の高い取り組みを実現できます。

企業におけるDX推進の現状と課題

企業においてDXの必要性は理解されつつも、実現のためには多くの課題があります。企業におけるDX推進の現状と、推進における課題にはどのようなものがあるのでしょうか。

企業におけるDXの取り組み状況

日本企業のDXの取り組みは、必ずしも進んでいるとは言えない状況です。「DXレポート2」での報告によれば、DXへの取り組みが未着手である、もしくは一部での取り組みにとどまるという企業が全体の95%を占めるという結果となっています。つまり、日本企業は、まだDXへの本格的な取り組みには至っていない状況だといえます。

その背景には、DX推進における様々な課題があります。以下では、企業が抱える主な課題について解説します。

課題①:デジタル人材不足

DXを実現するためにはこれまでの慣行や既存業務にとらわれることなく、率先して改革を進めていく必要があります。また、その際にはITに関するスキル・知見も必要です。よって、DX推進のカギは、人材にあるといえます。

一方で、DX推進のためのデジタル人材不足は深刻な状況にあります。日本ではITへ精通した人材がベンダー企業に偏っているという状況があり、ユーザ企業が自社でIT人材を確保するのが難しい状況にあります。ただでさえ不足状況にあるIT人材のうち、ビジネス・デジタルの両面の知識をもち、かつ改革マインドを持った人材を確保することは簡単ではありません。

課題②:経営層の危機感の欠如

業務改革、ビジネスモデルの刷新を目的とするDXの推進においては、ビジネス部門とIT部門の協働が重要です。しかしながら、一般的に日本企業の組織では、ビジネス部門とIT部門は別々に設置される傾向にあります。このような組織形態において両部門が協力するためには、経営層レベルからの指示が絶対条件となります。

しかしながら、経営層にはITやデジタルを理解できる人材が少なく、またDXの重要性を理解しにくいことなどから、経営層からはDX推進の号令がかかりにくいのが実態です。

課題③:レガシーシステムの負担

特に大企業においては、従来から多くの業務システムを開発し、利用してきました。このようなシステムは古い時代に作られたものが多く、最新のアーキテクチャ・インフラが利用されているものは少ないといえます。

これらレガシーシステムは、度重なる改修を行いソースコードが複雑化していたり、その内容を理解している有識者が少なかったりと、いわゆるブラックボックス化しており運用・改修コストが高止まりする傾向にあります。

このようなシステムを抱えていると、新規投資に回す余力が失われます。また、新しい取り組みをしようにも、レガシーシステムが枷となりスピーディな取り組みが進めにくいという課題もあります。

課題④:試行レベルからの脱却

DXという言葉が現れた当初、「スモールスタート」の重要性が説かれました。多くの企業では、スモールスタートとして実証実験やPoCという形でDXの取り組みを始めました。

これらの取り組みのうち、具体的な施策につながるものももちろんありますが、多くはトライアル段階で取り組みが終了してしまう例が多いといえます。これは、形だけでもDXに取り組まなければならないという意識から起こるものであり、DXによる本質的な改善につながる例が少ない状況を表しているといえます。

DXに取り組むことは差別化要素に

これらの課題が示すように、DX推進のためにはいくつもの障害があるといえます。日本企業の多くが本格的なDX推進の状況に至っていないという調査結果からも、課題の存在が示唆されます。

一方で、DX推進が進んでいない企業が多いということは、これからDXを推進することで他の企業との差別化を図れる可能性があるということでもあります。様々な課題を解決してDXを推進することには、十分な価値があるといえるでしょう。

DX人材とは

上述の通り、DX推進における大きな課題の一つに、人材不足が挙げられます。それでは、DXを推進するために必要となるDX人材とはどのような人材なのでしょうか。

DX人材の定義

経済産業省は、2018年に公表した「DXガイドライン※」の中で、DX人材について以下のようなものであると定義しています。

<DX人材の定義>

  1. DX推進部門におけるデジタル技術やデータ活用に精通した人材
  2. 各事業部門において、業務内容に精通しつつ、デジタルで何ができるかを理解し、DX の取組をリードする人材、その実行を担っていく人材

つまり、DX人材として定義されるのは、デジタル技術やデータ活用に関して精通したIT分野の人材に加えて、ビジネス面からデジタルを理解し、DXを進めていく人材となります。DX人材とはIT部門などのDX推進部門にのみ存在するのではなく、従来はITにかかわりのなかったビジネス部門側にも必要であることになります。

※経済産業省:デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン

DX人材に必要なスキル

それでは、DX人材にはどのようなスキルが必要なのでしょうか。ここでは、主要なスキルを3点紹介します。

  1. データ活用への理解

DXの推進とは、「データの活用方法の検討」と言い換えてもよいほどに、データの活用はDX推進のポイントとなります。よって、DX人材にはデータ利活用の知見が必須です。

データの活用のためには、「収集・蓄積」「集計・分析」の2ステップが必要です。自社のデータを収取・蓄積する手法として連携ツールやクラウドストレージ等について理解し、またデータを集計・分析する方法として、BIツールやAI・機械学習の活用方法などに関する知識も必要なスキルとなります。

  1. デジタル技術の知識

当然ながら、DX人材となるためにはデジタル技術のスキルが必要です。例えば、製造業であればIoTデバイス・エッジコンピューティングの活用法などの知識は重要ですし、小売業であれば新決済システムやデジタル認証方法などの理解が大切です。

新しい技術へアンテナを立てながら、自社のビジネスへの適用方法を検討できることがDX人材に必要なスキルといえるでしょう。

  1. プロジェクトマネジメント力

DX推進は基本的にプロジェクトベースで行うことになります。よって、必ず必要なのがプロジェクトマネジメントスキルです。

ウォーターフォール型のプロジェクトマネジメントに加え、スクラムなどの新しいマネジメント手法を習得することで、現代的なプロジェクトマネジメントを遂行することができるでしょう。

DX人材に必要なマインドセット

続いて、DX人材に必要なマインドセットについて解説します。改革意識が求められるDX人材には、意識面も重要です。以下では、DX人材に必要な3つのマインドセットについて紹介します。

  1. 挑戦する意識

最も重要といってもよいのが、挑戦する意識です。DX推進は失敗する可能性が高い取り組みといえますが、その中でも失敗を恐れずに、新しいことに取り組んでいける意識が求められます。

  1. 協働する意識

また、周囲と協力して新たなものを作り上げていく意識も重要です。特にDX推進のためには、ビジネス部門とIT部門が力を合わせる必要があります。お互いに不足する部分はチームで補って解決していくマインドが求められるといえます。

  1. 慣習を打破する意識

DXのポイントは、現状打破にあります。従来のやり方を変え、新たなビジネスを生み出していくことがDXには必要です。慣習にとらわれず、改革に反対する既存関係者の反発を抑えながらも実業務へデジタル技術を導入していくマインドがDX人材には必要です。

DX実現のための技術・手法

以下では、DXを実現するために必須ともいえる技術や手法について解説を行います。

IoT

IoTとは、Internet of Thingsの略称であり、あらゆるものがインターネットに接続する状態を示した言葉です。IoTは、通信機器の小型化やバッテリーの高性能化などの技術進化を背景として実現されているものです。特に製造業ではIoTによる生産性改善が期待されており、導入が進んでいます。

例えば、工場内にセンサを配置することで、機器の故障を自動で検知する取り組みが進んでいます。配管中にセンサを設置することで配管内部の腐食を検知したり、カメラで撮影したタンク画像により劣化状況を判断したりといったことがIoT技術を活用することで可能です。

AI

AIとは、人工知能関連技術の総称です。具体的には、AIは主に機械学習と呼ばれる技術により実現されています。機械学習とは、あらかじめ与えた訓練用データの特徴を学習したうえで、分析対象のデータをインプットすることで、データの分類や傾向把握を実現する技術のことです。例えば、犬と猫の画像を事前にたくさん投入することで、ある写真に写っているのが犬か猫か判別するような分類器をつくることができます。

近年ではディープラーニングと呼ばれる、機械学習技術の一つであるニューラルネットワークを多層化した機械学習によってAIの性能が格段に向上したことにより、注目を集めています。具体的には、ディープラーニングによって現在のAIによる画像処理能力は、すでに人間の目による判別能力を超えています。音声認識についても、ほぼ人間並みの認識能力があります。

AI技術を活用することで、例えば人が目で見て判断しているような検査業務などは自動化することができます。その他、自動運転に代表されるように、カメラからインプットされた情報を元に車を操作するような仕組みも実現できます。

クラウドコンピューティング

クラウドコンピューティングとは、自社でサーバを用意するのではなく、クラウド提供事業者が大量に保有するサーバを部分的に利用することで、サーバリソースを柔軟に利用できるようにする仕組みのことです。

近年では、ITシステムのクラウドへの移行が一般化しています。銀行などの保守的と思われるような企業でさえも、自社の基幹システムをクラウド環境へ移行するなど、企業におけるクラウド利用ニーズは高まっています。SAPやOracleのような大手ERPパッケージもクラウド基盤上で動作するようになりました。

また、日本政府の動きに目を向けると、2018年に政府がいわゆる「クラウド・バイ・デフォルト原則」※を策定して以降、政府システムにおいてもクラウドの活用が進んでいます。近年ではデジタル庁の設立もあり、政府におけるクラウド化の流れは加速しているといえます。

※IT統合戦略室:デジタル・ガバメント実行計画

メタバース

近年注目されているのがメタバースという概念です。しかしながら、メタバースという考え方自体は決して新しいものではありません。メタバースはこれまで、仮想現実(VR)や各超現実(AR)などと呼ばれてきた技術をベースとしています。VRやARなどの技術を利用し、インターネット空間を進化させ、アバターを介して人々が交流したり、仕事をしたりすることができるようにするという世界観が、メタバースの考え方です。

メタバースというキーワードは、2021年10月にビックテックの一つであるFacebookが「Meta」と社名変更をしたことにより、注目されるようになりました。Meta社は、社名変更に合わせて今後メタバースに力を入れていくことを表明しており、メタバースの実現のために大規模な投資が行われることになると予想されます。

また、コロナ過の影響もあり仕事における仮想空間の活用も注目されています。テレワークの「協働がしにくい」という課題を解消する手法として、メタバースの活用が期待されています。

レガシーマイグレーション・モダナイゼーション

レガシーマイグレーション、モダナイゼーションいずれも、現行システムの刷新を表す言葉です。上述した通り、DXのポイントの一つに保守コストが高止まりする現行システムの改善が挙げられますが、これを実現するための手法がレガシーマイグレーションおよびモダナイゼーションです。

レガシーマイグレーションは、既存システムの要件を変更することなく、新たな基盤やアーキテクチャに刷新することを指します。古いアーキテクチャのまま利用され続けてきたシステムには、ソフトウェア・ミドルウェアの保守コストが高かったり、改修スピードが上がらなかったりといった課題があります。これらを解消するために、レガシーマイグレーションは行われます。

モダナイゼーションは直訳すると「現代化」を意味する言葉ですが、得にITの文脈においては古い業務システムのハードウェア・ソフトウェア等のインフラ環境を活かしつつ、必要に応じて最新化して企業の競争力を維持・強化していく取り組みのことを表します。

両者は似たような概念ではありますが、いずれにせよ目的は現行システムの課題を改善することにあります。DX推進の足かせとなる重厚化・肥大化したシステムを解消し、DXなど新規取り組みをしやすくするための手法がレガシーマイグレーション・モダナイゼーションと捉えられます。

主なDXの事例

以下では、主なDXの事例として著名な取り組みを紹介します。

セブン&アイ・ホールディングス社

まずは、セブンイレブンなどを運営するセブン&アイ・ホールディングス社の配送効率化の事例を紹介します。

EC業界の発展の裏側で、人手不足などを背景に配送事業者に過度な負荷がかかっていることが社会問題化しています。特に、配送センターから最終消費者に届けるプロセスを「ラストワンマイル配送」と呼び、受取人不在時に再配達する必要があるなど、課題が生じています。

セブンイレブンに加え、スーパーやレストランなど様々な業態を傘下に置くセブン&アイ・ホールディングス社では、グループ各社の配送効率を最適化する必要があると考え、AIにより車両・ドライバー・配送料・配送ルート・受け取り場所の最適化を実施しました。※

これにより、グループ各社の配送機能を各社の配送余力に応じて横断的に活用することができるようになり、車両やドライバーなどの配送リソースを共通利用しつつ、コスト低減を実現しました。

セブン&アイ・ホールディングス社プレスリリースより

NEC社

NECでは、自社内システムのモダナイゼーションを実施することでTCO(Total Cost of Ownership:総保有コスト)を30%削減することに成功しました。コスト削減だけではなく、クラウド化により柔軟なIT基盤を獲得したことによりビジネスの変化への追従が容易となるなど、ビジネス面でのメリット享受も実現しました。

本例のように、モダナイゼーションを実施することでコストを削減し、投資すべき領域への投資余力を生み出していくことが、DXの加速につながっていきます。

※NEC:DXを実現するためのIT最適化とは?

日本交通

日本交通では、他社と共同していつでもタクシーを呼ぶことができる配車アプリ「GO」を提供しています。これまでタクシーの配車は電話での注文が必要となるなど、手間の多いものでしたが、配車アプリ上で到着予定時刻が確認できたり、ビジュアルで周辺のタクシーの所在地を確認できたりと、ユーザ体験を大きく向上させることに成功しています。

GOは500万ダウンロードを達成するなど、一般に普及し多くのユーザが利用しています。

メルカリ

メルカリは、個人間取引のゲームチェンジャーとして知られる新興企業です。メルカリの最大の売りは圧倒的なユーザ数と品数の多さですが、メルカリがこのようなポジションを確保できている理由は、綿密なユーザ体験設計にあるといえます。

メルカリでは、売り手・買い手ともに最小限の作業で済むようにフローが練られています。売り手は、スマホで写真を撮るだけでAIにより商品名を探しだしてくれるので、値付けや最小限の情報を追記するだけで出品可能です。買い手が商品を購入すると、売り手は梱包したうえで近所のコンビニに商品を運べば、匿名で配送が可能です。買い手・売り手双方が相手の評価を行わない限り入金がされないなど、品質を担保するための施策も備えています。

まとめ

この記事では、DXについての全体像を理解する上で必要なDXの定義や注目理由、必要性と効果などの各要素について紹介しつつ、企業におけるDX推進の課題や事例、関連する技術分野について解説しました。

企業のDXの取り組みは道半ばといえます。

今からDXに取り組んだとしても、まだ他社との差別化を行うことはできる状況にあります。自社の競争量確保のためにも、企業におけるDX推進は必須となりつつあるといえるでしょう。